実は1週間ほど前に読了してました。
今回はこちら
「52ヘルツのクジラたち」著・町田そのこ
ずっと気になっていた本です。本屋大賞の本はハズレなし!と思っているので 笑
ノミネート作品も読みますが、やはり1位の作品は抑えておきたい。
ずっと単行本で見かけては読みたいのを我慢し、(貧乏人なので)文庫になるのを待ってました。
満を辞しての当作品です!!
あらすじ
大都会から大分の海辺にある田舎に引っ越してきた主人公。
読み進めていくうちに引っ越してきた理由だったり主人公の過去、さらに引っ越し先での町での出会いと周囲の人たちとの関わりで人生観が変わっていきます。
社会風刺的でもあった
今回こちらの本を読んだところ、ジャンルはまず何になるのかな?と思いました。
単純に長編小説…と括っても良いような、でもヒューマンストーリーのような…ただのフィクションでも良いのかもしれません。
でも私には読了後に感じたのは「社会風刺でもあるな」でした。
ネタバレになってしまうので細かいことは書けないのですが、まず大きなテーマとして全面に出てくるのは「児童虐待」です。
ただ児童虐待をテーマにした作品は他にもたくさん読んだことがあるので、そうそう珍しくはないんです。
この児童虐待以外にも実は隠された真実があったりするのですが(これが完全にネタバレになっちゃうので書けない)その児童虐待以外に描かれてる問題も現代社会において切っても切り離せない問題だったりします。
ふと思ったのが文庫化された今年2023年の時点では割と「この問題」に対して認識がそこそこ広まりつつあり、認知もされてきていると肌で感じていますが(ちなみに私は当事者ではありません)「52ヘルツのクジラたち」が世に出た2020年前半頃?は世の中的にやっと「この問題」が認識され始めた頃と思います。
そう考えて読むと、作中の人物たちの心情を想像するに心に刺さるものがあります。
町田そのこさんの書かれる文章は多くを語らずのようにも見受けられ、だけど心に迫るほどの想像力を触発される表現の仕方に涙が流れました。
児童虐待が全面的にあると書きましたが、まさにその児童虐待のシーンは心が痛くなります。
半分ぐらいまで一気に読みましたが、半分の時点でだいぶ泣きました。
現在と過去がまさに交錯する流れになってるんですが、これを書いてて気づきましたが過去も今も児童虐待の手口はさほど変わっていないんだなと。
そして昔も今も確実に存在する問題なのだなと思いました。
私は当事者ではないので、ニュースなどを見たときに被害者の心境がやっぱり想像しようにも分からない部分があったんですね。
だけどこの本を読んだら被害者が逃げられない心境というものが少し理解できたように思います。
無意識のうちに洗脳されているというか。この洗脳の部分でも現代社会にある問題のひとつでもありますね。
ただ、このお話の主人公(たち)は出会った人々に本当に良い人が多く、ラッキーな方なんだと思います。
心の欲望にどうしても抗えない部分だったり、本当に大事にしなければならないのは誰なのか、どれなのか気づかねばならないことだったり、主人公がものすごく人間臭くてとてもそこがなんだか魅力的だったりもします。
読み手にとってはあるいは物凄くイライラする主人公かもしれない 笑
でも私はその「どうしようもなく抗えない、抵抗できない欲望」と「だけど本当に救ってくれる人の存在」を自覚する主人公の強さみたいなものを感じられる作品だったので個人的には好きな作品に出会えたと思います。
そこの「どうしようもない主人公」の描き方がとても良い。
「類は友を呼ぶなのかなぁ」という場面もあったりするし「ここまでクソみたいな奴を引きつけるもん!?」とも思いますが 笑
人によってはハッピーエンドに思える結末だと思いますが、完全に全てがハッピーエンドでもないところもあり、そういう完璧に100%ハッピーエンドでないところもとても良い。
フィクションなんだけど現実的である作品。きっとこういう世界は現実にもあるんだと思える物語の方が私は好きで、そこに一筋だけど光が射す結末の方が心に残ります。
「52ヘルツのクジラ」とは
クジラって周波数で鳴くそうなんですが、通常のクジラたちが使う周波数とは違う52ヘルツで鳴く個体が確認されているそうです。
ただ、その52ヘルツの周波数は他のクジラには聞こえない周波数なんだそうで。
だけど52ヘルツでしか鳴けないクジラはいくら声をあげて鳴いても声が届かないんですって。
孤独ですよね…声を上げているのに周りには聞こえない、届かない。
助けて、と叫んでも聞こえない。
それだけでこのタイトルの意味のほとんどが理解できると思います。
さらに「52ヘルツのクジラ」ではなく「52ヘルツのクジラたち」と複数形であること。
そこにも大きな意味が含まれています。
ぜひ読んでほしい一冊です。
いや、もうこれそりゃ本屋大賞1位になるわ…ってなりました 笑
ちなみに
出版は中央公論新社さんになるんですが、文庫だけ表紙裏側にオマケの短編が付いてます。
別に読まなくても差し支えない短編ですが、本編のその後がすこーしだけ垣間見える内容になっていました。